貴婦人Aの蘇生 / 小川洋子

また小川さん読みました。
今回の話もまた不思議な世界だった。
「私」と血の繋がらないロシア人のユーリ叔母との同居生活。
舞台は、あらゆる動物の剥製があふれかえる洋館である。
平和に静かに暮らしていくはずが、
叔母さんがロマノフ王朝の生き残り、アナスタシア皇女であるという疑いが出てくる。
剥製のブローカー、オハラが叔母の敏腕マネージャーとなり、たくさんの人々との面会を手配したり、
テレビで皇女かどうかの検証を行ったりと猛獣館を忙しく動き回る。
叔母さんは満更でもなく、寧ろ興味を抱いてもらえる状況を喜んでいた。
しかしある日突然、叔母は事故で死んでしまう。
二階から落下したときに、置かれていた剥製のツノに突き刺さって。
それは悲惨な死に方のはずなのだが、何故か血なまぐさくない。
小川マジックである。描写はリアルで克明なのに、空気は美しく透明なまま。

登場人物ではニコが好き。
強迫性障害を患った、優しくて賢い、可哀想なニコ。
英字の隙間を塗り潰さなくてはならなかったり
扉をくぐるための儀式があったり。
そうしなくては、ならないのだ。なんの理由もそこにはない。
彼に関するエピソードが印象的。
まず、感情が高ぶった「私」がニコに対し、儀式なんてしなくても平気だと主張する場面。
そのときに叔母は、「順序は何より大事なのだ」という。
「赤の次に金の糸じゃないと駄目なのよ」と。
その人にとって、"絶対"なこと。
もうひとつ。
「世界の裏側に、自分と同じように扉の前で苦戦している人がいるかもしれない、
そう思うと安心して寝られるんだ」
ニコがそんなことをいう場面。
自分にとっては必要でも、理解されないようなこと。
そういうのは自分ひとりじゃないと、信じようとすること。
誰しも経験あるんじゃないのかなあ。

ストーリー自体は、やはり軽めだと思う。
娯楽の小説、という感じはする。

 

貴婦人Aの蘇生 (朝日文庫)

貴婦人Aの蘇生 (朝日文庫)